バッグができるまで

パンガンダランのバッグはショップの二階にあるアトリエから生まれます。
製作過程が多く、いわゆる普通ではないバッグを作るには現地で1から10まで管理しなければ作れないとの思いから住むことに決めました。
そうしてこだわり感満載のバッグができあがってきました。

《横振りミシン刺繍》

パンガンダランのバッグの刺繍のほとんどは《横振りミシン刺繍》で刺されています。

《横振りミシン刺繍》ってミシン刺繍とどう違うの?とよく聞かれます。普通のミシン刺繍は機械が刺繍絵を読みとって、機械が自動的に刺してくれます。だから全ての刺繍が均一でまったく同じものができます。
一方、《横振りミシン刺繍》は職人さんが布を動かしなら刺繍絵を刺していく職人技。
人が作るものだから一つ一つ表情が違います。同じ刺繍は2つとはなく、刺しあがった刺繍はまるで手刺繍かと思えるような風合いがあります。下絵を布に移し、原画を見ながらミシン針の上下の動きに合わせて刺していくという想像するだけでもスゴイ職人芸なんです。

現在ベトナムで横振りミシン刺繡を刺せるのは400人あまり。でもその中で仕事として刺せるのは50人。そしてさらに刺繍検定最高ランクの4レベルをパスしたのは30人。その中で難しいといわれるパンガンダランの刺繍を刺せるのはわずか10人。ですが上手いだけではダメなんです。そう、刺繍にはセンスが必要なんです。ちょっとしたニュアンスで大きく印象が違ってくるので。
そんなわけでパンガンダランでは最高の腕前を持つフンさんにお願いしています。フンさんは現在46歳ですが、15歳の時から刺しているのでこの道31年の大ベテランなんです。しかも本当にセンスがいい。全幅の信頼を寄せています。

近年の経済発展により、ベトナムも例外なく伝統工芸の職場は厳しい状況となっています。2000年以降、横振りミシン刺繡を刺せる人は急激に減り続けています。かつては学校もありましたが、今では熟練の職人さんが弟子をとり教えるようになっています。
フンさんも今までに4人教えたそうですが、最近の若い人で刺せる人はいないということです。急激な経済成長により、手仕事は置いてきぼりにされ、今後ますます職人の数は減っていくことが予想されます。日本以上にそのスピードは速く、国のシステムもそれを守ろうとはしないので、ベトナムの横振りミシン刺繡はあと十数年で風前の灯火となる運命にあります。

動画では貴重な熟練職人フンさんに『にわか雨刺繍』を刺していただきました。
確かな技術で彩られていく美しい刺繍をご覧ください。

材料は
現地で

パンガンダランの基本方針として、材料はできるだけ現地で調達します。 なぜ現地なのか?それは安いからです。
同じ質の材料だったら現地で買うのが一番お得です。ただしここはベトナム、現地で買えるベトナム製はそんなに多くはありません。
布・接着芯・中綿等、そのほとんどは近隣のアジア諸国からの輸入品。
韓国・中国・台湾が多いでしょうか。革はインド・バングラディッシュ・韓国、もちろんイタリアも。
生産国はそれぞれバラバラですが、ほとんどの材料が買えます。ただし買えないもが2つ。糸と金具。糸はミシン糸ですが革を縫う糸は特殊ですから日本から日本製の糸を運んでいます。金具は質のいいモノがなく、これも日本から運んでいます。重いし大変なんですけどね、ないものはしょうがない。その辺のたいへんなことはブログにさんざん書いてますので興味のある方は『バッグ製作の日々』をお読みください。

布を
切る

刺繍を刺すための布を、パターンよりかなり大きめのサイズで切りだします。刺繍を刺すとどうしても布が引き寄せられて縮んでしまうからです。その余裕をみて大きめに。
布はいろいろな種類を使いますが、革と組み合わせるのである程度の強度を必要とします。そのためにそれぞれの布の厚みと固さに合わせて数種類の接着芯を貼っていきます。これで強度も増し、端がほつれにくく、布がよれなくなるので縫いやすさも増します。
一方、布だけの簡単なつくりのバッグの場合は柔らかさをいかすために、接着芯はつかいません。
それぞれのバッグにあった使い方を選んでいます。

色を
決める

刺繍の色を決めます。
刺繍糸のサンプル帳からそれぞれの布にあった色を選びます。
いま手元にある革の色や季節感なども考慮し、出来上がりを想像しながらあれこれ考えるのはとても楽しい時間です。たくさんの仕事の中でもかなり好きな作業になります。
そしてその刺繍が出来上がってきた時もまた驚きがあって楽しいんです。想像どおりでも想像以下であっても楽しめます。想像以上だった時の嬉しさは格別ですが。

刺繍を
刺す

布を切り、色を決めたらいよいよ刺繍職人さんの出番です。
なぜパンガンダランでは横振りミシン刺繍を使うのかといえば、革とコンビで使うので布にある程度の強度が必要になるため、どうしても厚地の布になってきます。手刺繍は厚地の布を刺すのにあまり向いていません。厚地でかつ広い面積に刺すには労力がいります。生地の目が荒い布もムリですし。
その点横振りミシン刺繍は厚地でも荒い布でもかまわず刺せます。
逆に薄い布は布がひきつりやすいので難しいんです。
さらに機械でなく、人が刺す刺繍ですからいくらでも色を変えられます。パンガンダランのバッグに1点モノが多い理由の一つです。職人さんにとってはちょっと面倒ではありますが、きれいに仕上がった時には「Dep qua !とてもきれい!」と喜んでくれるので良しとします。

手刺繍と
ビーズ

できあがった横振りミシン刺繍にさらに手刺繍やビーズを加えることがあります。これらはまた職人さんが違うので新たに色指定をし刺繍糸を揃えて手渡します。
パンガンダランでは革コンビバッグの場合はフレンチノットでの手刺繍をお願いすることが多いです。このフレンチノットがけっこう大変で私などは10粒も刺したら面倒で音を上げてしまいます。
こんな地道な作業を延々と続けるわけですからよほどの忍耐力です。刺繍を刺す人はすごいですね。頭が下がります。
他にも手刺繍のスカーフや風呂敷、ドロンワーク手法のハンカチなども作っています。時間のゆるす限りアップしていこうと思います。

型を
切り抜く

出来上がった刺繍に合わせてパターンの形に切り抜いていきます。
刺繍が刺された布はアチコチが縮んでいるので刺繍絵が微妙に変形しています。それを考慮に入れながら型どおりに切り抜いていきます。この作業はけっこう時間がかかります。
ふつうは布を何枚か重ねて切ったり、型抜きでくり抜いたりするんですがそれができないので効率が悪いったらありません。
でも大量生産ではないですからね、地道に一枚一枚切っています。
パターンは鈴木が日本での革バッグの修行中に作ったものです。まだまだたくさんのパターンがあるんですが作るのがなかなか追いつきません。これからゆっくり出していきますのでお楽しみに。

本革を
使う

布の部分ができあがったら金具やファスナー、革、糸など全ての材料を揃え、革職人さんの手にお渡します。
パンガンダランでは大きなバッグは最初からずっと本革を使っています。なぜ本革を使うのかといえば、やっぱり合皮とは耐久性がちがうので。最近では本革かどうか見分けがつかない合皮もありますが、やはり使っているうちにわかってきます。
せっかくきれいな刺繍をしたんですから長く使ってほしいんです。布の部分はそれなりに汚れたりくたびれたりはしますが、洗えなくはないですし長持ちします。
できあがったバッグには必ず革用クリームを塗布してお渡ししています。これを塗ると塗らないでは持ちがまったく違ってきます。ご家庭でもたまのメンテナンスをおすすめします。詳しくは『バッグ製作の日々』をご覧ください。